Moonlight scenery

      “Before Santa comes...
 


温室育ちと決めつけておれば、
さして我儘でもないくせに、
意外なところで頑迷さが発揮され。
無茶なことや危ないことへも、
一旦決めたら引かない利かん気が、
時折お顔を覗かせる、そんな頼もしい坊やだもんだから。
想いも拠らぬ筋から
世間への見せしめ“scapegoat”として、
生命を狙われることも多かりしな彼じゃああるが、
しゃにむに庇い立てするよりも、
好きにやらせつつ、しっかと護ればいいのだと。
こちらの気構えにも“前向きであれ”との、
手厳しい発破をかけてくださる王子様。

 そんな彼へと仕えることと相成ってから、
 さて、もう何年目となるのやら…



      ◇◇◇



極東のとある島国では、
これまでにも事ある毎に、
ぎくしゃくして来た近隣諸国との関係が、
今年は特にあからさまに、
大波と化しての表面化したか…なんてな運びにもなりの。
そんな最中に、今度は別のお国が、
いきなり砲撃込みの激発してくれたものだから。
そっちへの対処にあたふたさせられることになるわ。
内政もとんでもない近年じゃああったれど、
外交でこうまで きな臭かったのは、
結構、久し振りだったんじゃなかろうか。

 「何十年と砲撃が鳴りやまない国もあるっていうのに、
  それを思えば別世界クラスで平和よねぇ。」

例えば内政への批判回避が真の目的という、
向こうのお国の事情による情報操作の果てに槍玉に挙げられ、
それでの反目やら不買運動やら、
報道攻撃が展開した場合はたびたびあったれど。
そこが相手であれ、
具体的な戦闘が生じるほどの
険悪な国際関係に発展するかも…なんてところまで、
国民のどれほどが本気で案じているものか。

 「まま、ウチも危機感が薄い点では、
  いい勝負なんだろうけれどもね。」

きな臭い状況でない時期なんて歴史上あったんだろうかというほどに、
中東の砂漠だの地中海だの、揮発性の高い地域へ接しておりながら。
だというのに、その発祥のころよりずっと、
大した徴兵制もなければ、戦場になったためしも聞かぬ。
永の歳月のずっと、公言こそしてはないながら、
それでも“中立国”であり続け。
それはそれはおおらかで平和で、
各国から“お花畑”とまで呼ばれている王国が、
この、小さな小さなR王国であり。

 「ですがね、
  何にもしないでそうだってんじゃあありませんからね。」
 「サンジくん? さっきから誰と話してるの?」
 「ああ、いや…何でもありませんて。」

そう、何にもしなくて成り立っている
“安寧な国情”では勿論なくて。
国王を初めとする王族や、外交筋の大臣たちは、
関係各国との緊密な交友も卒なくこなし。
平和を訴える立場をわきまえた上での、
様々な活動に芯の通った態度で接し。
長年かけて培った許容の内へ秘めたる、
とある“威容”も忘れずにちらつかせ、
大国さえも黙らせ、若しくは見て見ぬ振りをさせ、
表向きの温厚なお顔とは別口の、
おっかない切り札の管理の方も着々と継続中。

  ……とかいう、お国の事情はともかくとして。

 「ウチも忙しいんですよね。
  クリスマスやら新年やらを目前にして。」

観光だの外交だのが主柱の国としては、
イベントごとも立派な国事だったりするもんだから。
やれ、どの国のパーティーから招待状が来ているか、
あちらの国へはどの級の大臣を向かわせましょかといった、
スケジュールの整理や相互連絡の要る案件が日頃の倍は押し寄せるわ。
勿論のこと、この国の宴も盛大に催すので、
そっちの準備もしっかりと進めにゃならないわ。
現場も忙しには違いなかろうが、
たんとあるそんな現場を結ぶ事務方も、
山のような連絡網を把握しておく義務があり。
第二王子専属の事務官筆頭の皆々様もまた、
12月に入った境目さえ判らぬほどに、
様々な案件への指示を出したり混線をほどいたりと、
そりゃあもうもう忙しそうになさっていたのだが。

 「それいけ、メリーっ!」
 「うぉん!!」

そんな翡翠宮のお廊下を、庭から突入して来ての正門目がけ、
だだだだっと疾風のような勢いで、
通り抜けようとした大物さんがあったりし。

 「わっ、何だ何だっ。」
 「ルフィ殿下?」
 「メリーを宮中で乗り回してはなりませぬと…。」

白地に濃灰色のブチ模様、そりゃあ大きくて毛足も長い、
オールド・イングランド・シープドッグのメリーちゃんにまたがって、
小柄な王子様がたったかと駆けてゆくのが、
よくある光景なのが…ここならではとでも言いますか。
勿論のこと、埃が舞うしあちこち壊しはしないかという心配もあるし、
それより何より、

 「振り落とされて危ないってのは、誰も案じないのがまた凄いよなぁ。」
 「ウソップっ、呑気に感心してないで、停めるの手伝いなさいっ!」

こんな行儀の悪い様、誰かに見られたらどうすんのっ。
自由奔放な王宮なんてな言い回しでどんなに気を遣われてたって、
外聞がよくないには違いないでしょうがと。
佑筆こと書記官筆頭のナミがどやしつけつつ、女官の皆様で追うものの、

 「だあっ。」
 「メリー、こら、とまれっ!」
 「ダメです。王子の言い付けが最優先です、彼女。」

大理石のお廊下は、絨毯が敷かれているからすべることもなく。
だかだかだかと直線コースを一気にぶっちぎり、
その先で明るく開けていた玄関を、
今まさに通過しかかった一人と一頭だったものの。

 「…………あ、ゾロだ。」

出してはならぬと構えているとはいえ、
そこを閉じてしまうと衝突の危険もある。
よって手も足も出せないまんまでいた最終臨界地だったはずだが、
そこを出たすぐのところへと、すっくと立ちはだかっていたのが、
誰あろう、王子づきの特別護衛官さんではありませぬか。
かっちりと頼もしい肩に、
筋骨の隆と引き締まった胸元と頑丈そうな屈強な二の腕。
ピンと張った背条も凛々しいままに、
決して動じぬ鷹揚さでもって泰然と構えると、
軽く腰を落としての手は片側の腰へ。
焦ることもないまま待ち構え、そのままだとぶつかるぞと、
周囲がわあと慌てたそのざわめきさえ涼しく受け流しての、

  ―― しゃりん・きん、と

さすがに日頃はそんなもの装備していないはずの、
和刀の大太刀を ずばっと一閃した緑頭の護衛官殿。
いくらなんでも殺生はやりすぎ、
きゃあっという悲鳴さえ上がったほど逼迫していた現場であり。

 「ちょ…。」
 「ゾロ、何やって…っ。」

宮中での抜刀なぞという、
とんでもないことをしでかした護衛官殿へはさすがに、
ウソップはギョッとしたし、ナミも金切り声を上げかけたものの、

 「…わあっ。」

確かに何かを切ったらしい彼の傍ら、
急には止まれなんだか、
一気に駆け抜けた小山のような大毛玉のメリーちゃん。
それでも…乗っていたルフィが首輪をついつい掴みしめでもしたものか、
数mほど通り過ぎた辺りで立ち止まった様子は、
さながら、日本の時代劇の“立ち合い”の場面。
侍二人がすれ違いざまという切り合いを演じたものの、
あまりの鋭利な攻撃へ、
斬られたと実感するのに追いつく間が要る図のようでもあって。
そんなメリーの側、
“騎手”の立場にいた王子がすっとんきょうなお声を上げたため。
まさかまさかお怪我でも負われたかと、
その場に居合わせた皆が、ひょえ〜〜っと青ざめかかったものの、

 「何だ何だ、この網はっ。」
 「網じゃねぇよ、テラスに這わせてあったネイビーの蔓だ。」

今の時分だ、本物の生まものじゃねぇけどよ、と。
目許を眇めてご説明して差し上げた隋臣長のサンジさん。
投網にかかった大きめの鯉のごとく、
緑の蔓の束にあっさりと搦め捕られ、
何だ何だともがく王子様の間近へまで歩みを運ぶと、

 「で? 何をしたくてのご乱行だったのかな、王子様?」
 「あやや…。」

ルフィ呼びではない時ほど、
どんなに微笑っておいででも実はしっかり怒っておいでの彼だということ、
それこそ骨身に染みて御存知の王子だったので。
しまった叱られるぞと、首をすくめてしまったのもまた、
言うまでもなかったのでありました。




    ◇◇◇



 「だからさ、締め切りはいつも14日なんだって。」

知ってっかゾロ、
日本じゃあさ、若様が締め切りに間に合うようにって、
家臣が一団となって、
道を空けよと雪の中を頑張って邁進したっていう話があって。
その晩のうち、何とか間に合ったんでってことで、
先代のお墓に報告にまで行ったんだって…と。
何だか妙に仰々しい喩えまで引っ張り出した王子様だったものの、

 「…それってもしかして“忠臣蔵”とかいう話じゃね?」

目許がすっかり座っているのは、
今度は医療局のチョッパーせんせえだったりし。
ばさーっと降って来た模造つる草に、まんまと搦め捕られた王子様。
傷から雑菌でも入ってたらコトなのでと、
一応の用心のための診察に運ばれて来た身でありながら、
手振り身振りも加わっての、
それは熱心に説いて下さったのが、さっきの奇行の顛末で。

 「そういや、例の“げんかいたいせー”の時期ではあったな。」
 「でも、ここんとこは忙しさが増してたし。」

何年かのこととはいえ、ふっとそんな素振りを見せなんだ王子様だったので。
もう卒業しちゃったかと思い込んでいたスタッフ一同であり。

 「“げんかいたいせー”? 何だそりゃ?」

一番最近に仲間内に加わったばかりの、工部担当フランキーへは、
既に吹き出しかかっているウソップが、
こっちこっちと手招きしての、
内緒話として教えてやっておいでのそれこそは、

 ―― へべれけな字で書いたお手紙
    クリスマスプレゼントへのリクエスト

サンタクロースへ宛てて出すそれを、
ほんの最近まで本気で信じての欠かさなかった王子様。
どこまで純粋培養なんだよと、
天才工部が呆れてしまったのも無理はなかろうが、

 「だってサンタってのは、
  衛星で追っかけないと捕まらないほどって話でさ。
  そうまでの機動力なんなら、
  遠い戦地にいるお父さんへの手紙とか、
  山岳や極地で冬を越さにゃあならない、
  何かの隊員やってる家族へっていう贈り物とか。
  代わりに運んでやってほしいって書いたんだ。」

 「…そうなんだ。」

純粋には違いないながら、そんな崇高なお手紙だったらしいのを、
だがだが、連日何かと忙しかったんで、ちゃんと書き上げるのに日がかかった。
そこへ……恐らくは日本贔屓な父上か兄上から吹き込まれたのだろ、
デタラメな“忠臣蔵”のお陰様、
締め切りに間に合わなんだと焦っての暴走だったようで。
飾り付けものだった蔓草は、トゲだ何だはついていなかったので、
どこにも怪我は無しとの診断が下され、

 「でもさ、14日が締め切りってのは日本だけの話じゃないのかな。」
 「そっかなぁ?」

怪我はなかったが汚れはしてるぞと、
蒸しタオルでわしわしと、お顔や腕なぞ拭われながら、
大柄な青年医師殿のありがたい助言へ む〜んと唸って見せる無邪気な王子。

 『ああ、あれはね。
  取り寄せに時間のかかるものだったりすると、
  クリスマスに間に合わない懸念があるんでってことで。
  随分と昔に、シャンクス陛下がさりげなく付け足した期限なの。』

そんな裏事情が王子様へ伝わるのは、
一体あと何年経ったら何でしょか。
(苦笑)
忙しい最中に突然こういう騒ぎが勃発するのもまた、
ここの平和な王宮ならでは。

 「剣圧だけで結構な量があった蔓草を切り落としたゾロも凄いけど、
  どこまで本気なんだか、夢いっぱいな“理想”を忘れないルフィなのも、
  俺には凄いことだよなって思えてサ。」

仔牛ほどもあろうかという大きなわんこの懐ろに抱きついて、
そのまま“まふ〜〜っ”と埋まりつつはしゃぐ、
屈託のない王子様なのへ苦笑をこぼしつつ。
こちら様だって、ある意味 立派な単身赴任、
故郷には少ない、本格的な総合医師になるためにという、
真剣なお勉強を積んでおいでのせんせえが。
だがだが、
ルフィ王子のようなところも忘れちゃあいけないよなと、
しみじみ呟いた、12月半ばの昼下がりだったそうな。


  クリスマスと年越しの準備、
  皆様 進んでおいででしょうか?

  (余計な世話ですか、そりゃあすいません。)




  〜Fine〜  10.12.15.


  *年賀状の受付が始まりましたというCMを見て、
   こういう話を思いついてしまう私は、
   本当に日本人なんだろか?
(笑)

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